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好事例インタビュー

通訳利用方法の拡充で利便性アップ
保健所が行う外国出生結核患者とのコミュニケーションを支援

東京都/東京都 保健医療局 感染症対策部 防疫課

インタビュー実施日:2024.02.07

東京都 保健医療局 感染症対策部 防疫課

全国の新登録結核患者数は1999年以降連続して減少傾向が続き、2022年の新登録結核患者数は10,235人となりました。東京都の結核罹患率は、全国の中で2021年はワースト12位、2022年はワースト17位など全国的に高い水準です。また、その中で外国出生の患者の割合は近年増加傾向にあります。

東京都では、都内の各保健所に派遣や遠隔で通訳を提供する「外国人結核等患者治療服薬支援(医療通訳)事業」をはじめ、外国出生の結核患者の治療支援を円滑にできるような様々な取り組みを行っています。

今回は、結核患者への治療支援を行う東京都から、保健医療局感染症対策部防疫課課長のカエベタ亜矢さん、結核担当課長代理の吉田昌一さん、主任の市川かよ子さん、同じく主任の田端洋平さんにお話を伺いました。

東南アジアなど罹患率が高い国生まれの患者が増加

東京都における結核対策で重要なポイントとなるのは、高齢者と外国生まれの患者です。高齢者は、日本でも結核が流行っていた戦時中などに感染し、高齢になり免疫力が低下したことに伴い発症する場合があります。
一方、外国生まれの患者は2010年頃から少しずつ増え始め、2018年あたりをピークに急増しました。東南アジアを中心に結核患者数の多い高まん延国から入国し発症することが多く、都内では日本語学校の学生が入国後早期に発症するケースがかなり多いです。

コロナ禍の入国制限等による影響もあり、新型コロナウイルス感染症が5類に移行した2023年5月頃までは新規に入国する患者は少ない状況でしたが、それ以降はまた増えてきています。

東京都の年齢階級別新登録患者中の外国出生者の割合

東京都の年齢階級別新登録患者中の外国出生者の割合
出典:東京都康安全研究センター|東京都における結核の概況 令和4年(2022年)

東京都の年齢階級別新登録患者中の外国出生者の割合

東京都と全国の新登録結核患者における外国出生者数の推移
出典:東京都康安全研究センター|東京都における結核の概況 令和4年(2022年)

様々な取り組みの実施で早期発見と正しい情報発信を目指す

外国生まれの結核患者さんに対する都の取り組みとして、結核健診の実施や結核に関する動画や冊子による普及啓発、そして通訳事業があります。

結核の感染拡大防止には、早期発見が重要な対策の1つであることから、都では結核健診を実施しています。日本語学校健診については、都保健所管内にある日本語学校の学生が対象です。この健診は、日本語学校では健診の実施義務がなく、過去には集団感染なども起こった経緯があり、国の補助金を利用して実施しています。

また、日本語学校における健診とは別に、健康診断を受ける機会が少ない方を主に対象とした健診も1年に1回行っています。

無料の結核健診のお知らせ

無料の結核健診のお知らせ

外国生まれの方に結核について正しい情報を知ってもらうための取り組みとして、多言語動画を作成し、「東京動画」での公開やDVDの制作・配布を行っています。2018年に7言語に対応して作成し、都内の保健所などにDVDを配布しました。動画があることで、外国生まれの方に正しい情報を共通して理解してもらうきっかけにもなるかと思います。

多言語動画の紹介

7言語に対応した教育用動画の案内

7言語に対応した教育用動画の案内

重要な治療初期の対応を母国語で丁寧に

都は外国生まれの結核患者さんへの他の取り組みとして、「治療服薬支援(医療通訳)事業」を2005年度(平成17年度)から行っています。

事業を開始した際は、事前予約が必要な派遣通訳や2者間での電話通訳のみを提供していました。2021年度(令和3年度)からはタブレットを用いた遠隔通訳が、2022年度(令和4年度)からは保健所・自宅などにいる患者・通訳者を電話で繋ぐ予約不要の3者間通話が最大32言語で利用できるようになっています。

機械翻訳ツールなどを使うことで、定型的なコミュニケーションは可能になりつつあります。しかし、結核患者さん対応は、結核についての基礎知識や患者さんの背景を理解し、患者さんの理解度を確認しながら丁寧に進めていく必要があるため、より正確なコミュニケーションが求められます。特に、保健師から患者さんへの最初の説明はとても重要です。

結核は2類感染症にあたるため、病状に応じて入院もしくは外来治療が必要となります。初期の段階で患者さんに病気や治療について理解していただけないと、その後の対応が難しくなったり、患者さんが不信感を抱いたりすることに繋がります。特に潜在性結核の場合などは、最初の理解が十分でないと治療を勝手にやめてしまうケースも少なくありません。ですから、重要になる最初の対応では、医療通訳を介して患者さんの母国語でご説明し、保健所側も患者さんに理解していただけたかを確認しながら進める必要があります。

また、患者さんの出生国の背景が分からない時に、医療通訳の方から文化的な背景を教えていただくこともあります。「この国ではこういう場面ではこうします」というように文化の仲介者としてのアドバイスやコメントをいただける場合もあり、助かっています。

こうしたことから、外国生まれの結核患者さんの治療支援において医療通訳は重要なツールとなっています。

多言語で作成されたリーフレット

多言語で作成されたリーフレット

保健所向けに作成した電話医療通訳の利用マニュアル

保健所向けに作成した電話医療通訳の利用マニュアル

遠隔対応や予約不要で通訳の利用が大幅に増加

2023年度(令和5年度)については、利用実績が非常に増えている状況です。コロナ禍の入国制限が解除され入国者数が増えたことや本事業の有効性・利便性が浸透していったことが影響していると思われます。

仕事など色々な事情により、患者さんが直接保健所に来所して対面で話せない場合でも、3者間通訳で電話対応ができるようになったので、今まで保健所が連絡を取るまでに苦労していた点がかなり改善されました。

また、色々な事情で連絡できる機会が限られている方が急遽保健所にいらっしゃった場合でも、予約なしで遠隔通訳を利用できることで、そのタイミングを逃さずに保健所が支援を行うための有効な手段となっています。

東京都が作成している多言語資料の一覧

東京都が作成している多言語資料の一覧

多数の関係者と連携して外国出生の患者さんを支援

患者さんの周囲の関係者と連携を取る上でも、医療通訳は重要になります。

入院をする際は医療機関から患者さんに説明をしていただくことになりますので、保健所と医療機関が連絡を取り合って支援を行います。入院の説明の際にはこの事業での医療通訳の同席を希望される医療機関も多く、医療機関からのニーズの高さも感じています。

患者さんが日本語学校の学生だった場合には、学校に通えるように準備をしつつ治療を継続するケースもあります。その場合は、学校の管理者や先生にも結核治療について理解していただきながら治療を支援していく必要があります。

このように患者さん以外の関係者も多いので、保健所の保健師がリエゾンになり、医療通訳の方を介して関係者との連携を図ることが重要です。

保健所・患者さんが利用しやすい事業を目指す

今年度通訳利用が大幅に増加した背景としては、やはり有用性を実感した保健所からのニーズが高まったからだと思います。保健所の職員からも、医療通訳事業があることですごく助かっているという声を頂いています。

今後、保健所へのアンケート調査をもとに増加の背景を分析し、次年度以降の事業に生かしていければと思います。また、各保健所でどのように利用されているかを把握・分析し、適切にご利用いただけるようにしたいです。

都としては、保健所と双方向にやり取りをして声を聞きつつ、保健所も利用しやすい事業にしたいと思います。

全国的な課題として取り組み、国内における結核根絶を目指す

入国制限が緩和され外国人の方の入国が増える中、保健所において外国生まれの結核患者さんの対応増加が予想されます。もちろん通訳対応が必要なケースの発生は自治体ごとにバラつきがありますので、都内のどこでも適切な対応するため、都で一元化して医療通訳事業に取り組む意義があると思っています。

日本は2021年に結核の低まん延国となりました。今後のさらなる減少、また、その先の根絶に向けての取り組みが全国で必要になってきます。外国人の結核患者さんへの対応については全国的な課題であり、結核根絶に向けての対策が不可欠です。外国人の結核患者さんへの対応の必要性が広く認知され、全国的な取り組みが行われることで、国内における結核根絶を目指していけるのではないでしょうか。

結核予防運動シンボルマークである「複十字」のイメージカラー「赤色」にライトアップされた東京都庁第一本庁舎

結核予防運動シンボルマークである「複十字」のイメージカラー「赤色」にライトアップされた東京都庁第一本庁舎

※インタビュー対象の方のご所属・肩書きはインタビュー実施当時のものです。

※各対象の体制等もインタビュー当時のものであり、現在と異なる場合がありますので、予めご理解ください。