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好事例インタビュー

部署を超えた連携で進む外国人患者対応 
沖縄県が取り組む「インバウンド医療受入体制整備事業」

沖縄県/ 沖縄県庁

インタビュー実施日:2023.3.1

沖縄県庁

沖縄県へ訪れる外国人観光客の数は、年々増加しています。平成22年度には30万人弱だった外国人観光客が、平成30年には約300万人まで増加。外国人観光客の増加に伴い、インバウンド医療対応のニーズも高まりました。 そんな中、平成28年度より沖縄県でスタートしたのが「インバウンド緊急医療対応多言語コールセンター業務」です。これは、外国人観光客が急な病気やケガに見舞われても、安心して沖縄観光を楽しめるように、受入体制の整備や医療機関等の負担軽減を行う事業です。

具体的には、外国人観光客から病気やケガに関わる電話相談を受け付け、症状の聞き取りを行います。さらに必要なアドバイスを伝えて、外国語対応の可能な医療機関等の案内を行ったり、電話機の受け渡し又は映像端末による通訳の提供をしたりなど、サポートを行っています。※
今回は、外国人観光客の医療に関する多言語対応を県全体で推進している沖縄県の観光振興課の班長 喜屋武さんと上原さんに、「インバウンド医療受入体制整備事業」の取り組みを詳しく伺いました。

 

インバウンド医療対応のニーズが高い沖縄県

アジア圏が約9割、求められる多言語対応

沖縄県 令和3年版観光要覧より

沖縄の外国人観光客は平成25年頃から急速に増え始め、平成27年度には167万人、平成30年度には300万人まで増加しました。これはアジア地域の経済的な発展に伴う、世界的な旅行需要増や航空路線数及びクルーズ船の寄港回数の増加などが背景として考えられます。
外国人観光客が激増するなかで、医療機関にかかる外国人患者も増え、外国語対応が課題となりました。元々米軍基地がある関係で、英語で対応可能な医療機関はあったのですが、それ以外の言語については未整備な状態でした。

急激に伸びた外国人観光客の流入はアジア圏からが9割。中国や韓国、台湾など英語圏以外から多かったため、急遽、多言語対応の整備や文化風習の違いを踏まえた対応が求められるようになりました。

医療機関の負担を軽減するための事業がスタート

さまざまな国の方がいらっしゃるため、言語だけではなく、文化の違いを感じることも多くあります。例えば、決済手段としてキャッシュレスが普及している地域の方は現金を持っていない場合が多く、お支払い時にトラブルになることもありました。
また、保険に加入していない場合もあり、医療費が回収できないという問題も起きていました。病院からも「外国人患者の受け入れを強化したいが、人員の配置が難しい」という声が上がっており、県としても対応が必要だと考えていました。

そういった課題を受け、平成28年度からインバウンド緊急医療対応多言語コールセンター業務を設置。これは、「外国人観光客向けのコールセンターの設置」と医療機関の方の負担軽減のために「映像医療通訳のコールセンターの設置」、「簡易翻訳」、「インバウンドの相談窓口の設置」などを行うものです。 また、その他にも外国人観光客の医療対策ということで、「セミナーの開催」や「旅行保険加入促進などの活動」も行っています。※

 

沖縄県 インバウンド医療対応多言語コールセンター事業について

現場の声を反映して生まれたコールセンター事業

実証事業後のアンケート「引き続き希望する」100%

導入当初は、まず実証事業として、コールセンターを2ヶ月間設置することにしました。当時は医療機関や観光客を受け入れている宿泊施設だけが対象でした。

実証事業後、医療機関へのアンケート調査では「(事業の実施を)引き続き希望する」という声がなんと100%。その他、消防の方々からも、「地域医療と両立するという観点から継続してほしい」という声もありました。外国人観光客の方々に適切な医療窓口を案内ができることによって、緊急搬送の必要性が減っていくからです。

医療機関向けの映像医療通訳の設置を進めるにあたっては、まずは地区ごとに説明会を行いました。さらに、医療機関をそれぞれ個別訪問し、「実際に映像通訳を使ってどうだったか」などをヒアリングして、現場の声を吸い上げるようにしました。

そして、現場の方々のお声を反映し、コールセンター事業を本格的に導入。さらに平成30年度には外国人観光客個人の方に向けた相談窓口も開設し、そのまま現在の形になっています。

外国人観光客個人の方に向けた相談窓口の紹介(英語版)

現在、コールセンター事業が始まって既に6年ほど経ちますが、外国人観光客の方が自分の言語で医療機関に相談できる体制が、安心して滞在していただくことにつながっていると感じています。言語が通じなくてトラブルが起きたという事例は、最近ではほとんど聞いていません。
また、医療現場の方からは、「希少言語に対応していてありがたい」というお声をいただいています。英語以外の多言語に対応できるということが、とても現場で効果が出ているのだと感じています。

各方面との連携で課題解決へ

医療政策課との連携で進む外国人患者の対応

一方で、まだ課題もあります。先ほどもお話ししましたが、外国人観光客の方の中には、旅行保険に入っていない方もおり、医療費を集金できないという問題が出てきています。 沖縄県の医療政策課などとも連携をしながら、外国人観光客の対応の課題に対して、一緒に協議しながら進めていく必要があると感じています。

さらに、本事業は、外国人観光客向けの医療通訳として行っていたところではあるのですが、やはり新型コロナウイルスが拡大したことによる緊急的な対応が求められることも出てきました。在住の外国人の方でも、こういった医療通訳を利用したいというお声が多く届いています。 現在は、医療政策課の部署やその他の保健医療部の部署と協力しながら対応をしているところです。

地域の意見を吸い上げる協議会の重要性

宿泊施設や観光施設に関しては、事業の中で医療対策のセミナーを年に1回開催。本事業のご案内や最新の医療、県内の医療状況などを、有識者を招いてお話いただいています。

宿泊施設や観光施設向けのセミナーの様子

また、新型コロナウイルス流行前の平成31年度までは、医療と地域との連携を図れるように定期的に協議会も行っておりました。医師会や医療機関、消防、沖縄県の医療政策の担当、ホテル組合など関連団体を含めて意見交換や本事業の報告を行う会です。 さまざまな立場の方から幅広い意見を伺うようにしており、本事業の報告についても、医療機関だけでなく関連施設の方々からのご意見を吸い上げる場として活用していました。

現在は、コロナ禍で協議会がストップしてしまっているので、これから再開をして各方面でのご意見を伺い、さらに改善を進めていきたいと思います。

外国人対応を自治体で進めるには

ナショナルレベルで希少言語に対応できる体制づくりを

現在、沖縄県では希少言語への対応について評価をいただいています。当初は、5カ国言語の対応から始めましたが、やはり希少言語も含む多言語に対応できる体制を整えていくことが、外国人観光客が安心して旅行を楽しめる環境につながると思います。

沖縄県単体の取り組みではなく、ナショナルレベルでこういったコールセンターなどの体制が整っていくといいと感じています。国としても観光を柱にした成長戦略を描いていると思いますので、そこに対応して外国人観光客の医療の体制整備も進めていただけると嬉しいです。

部署同士の連携が鍵を握る

自治体によっては観光の部署と医療の部署が十分に連携できず、バラバラに動いてしまうことがあります。しかし、新型コロナウイルスのような感染症については、部署の連携を図っていくことが解決につながるはずです。そのため、部署間の連携を強化することも非常に重要だと思います。

沖縄県では、平成30年度に「はしか」が流行したことがあります。その時には台湾からの外国人観光客の方が初発だったのですが、対応した医療機関から迅速に県の医療部署に連絡がなされ、観光の部署とも連携して対応しました。その方の行動を追って接触したグループを早期に特定し、感染拡大を防止するとともに、観光事業者におけるワクチン接種を促進するなどの対応を行い、短期間で封じ込めることができたのです。 医療では感染拡大防止に取り組み、観光ではワクチン接種や風評被害への対応を一体的に行うことで、一早い観光の回復につなげることができました。そのため、協議会のような形で「普段から顔の見える関係」を築くこと、連携の基盤を作っていくことは必要だと考えています。

アフターコロナの沖縄観光事業

誰もが安心安全に医療を受けられる環境が大切

引き続き、コールセンターを活用して外国人観光客の方に安全安心な沖縄をアピールしていきたいと考えております。 基本的には観光客向けのサービスになりますが、在留の方に対しても多言語での医療提供は必要なことだと考えております。今後、保健医療部との連携を図りながら、沖縄県全体で多言語対応を進めていきたいです。

昨今のコロナ禍で外国人観光客数はぐっと落ち込み、令和4年11月では1万2100人(那覇空港経由の外国人観光客)ほどになりました。路線再開が今はまだ限定的ですが、少しずつ増えていくことで、外国人観光客も増えてくるのではないかと考えています。

まだPRが足りないところがあると感じていますので、さらに力を入れていきたいと思っています。観光地として選ばれるためには安全安心ということも大事になってきます。訪日前に保険に加入をしていただくことや、沖縄県で外国人観光客の方が医療を受けられる体制が整っているということをしっかりと伝えていきたいです。

※平成28年度の「インバウンド緊急医療対応多言語コールセンター業務」については、医療機関・宿泊施設のみが対象。