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好事例インタビュー

チームで対応力を高める 国際医療支援室が目指す外国人患者さんと医療従事者が安心・安全な体制づくり

滋賀県/ 社会医療法人誠光会 淡海医療センター

インタビュー実施日:2022.11.14

淡海医療センター

滋賀県南部に位置する草津市。全国でも数少ない今も人口が増加する活気溢れる街です。利便性が良く、京都・大阪都市圏の自然豊かなベッドタウンとして発展をしてきました。 市内に大学や大手企業等の工場が立地しているのが特徴で、留学生や技能実習生など在留外国人数は直近3年で1.6倍増、大きく増加傾向にあります。2021年12月時点では、2,889名の方が居住しています。 外国人も地域の担い手として活躍できる環境整備が求められる中、市は「草津市多文化共生推進プラン」を策定。関係機関と協働・連携しながら、多文化共生社会の推進に向けた取り組みを進めています。 今回は、そんな草津市の中核を担う病院「社会医療法人 誠光会 淡海医療センター(以下、淡海医療センター)」国際医療支援室の石橋さん、医師事務作業補助課の辻さん、医療通訳の陳さん、坂口さんにお話を伺いました。

 

淡海医療センターとは
淡海医療センターは、滋賀県南部の中心である草津市の中核を担う総合病院として、市民や湖南地域の方々の健康を守るための医療活動を行っています。より広域に対し、より高度で専門的な医療を提供する高度急性期病院に進化する第一歩として、2021年10月には草津総合病院から「淡海医療センター」へ名称を変更。二次救急指定病院として地域医療の中核を担うだけでなく、災害拠点病院として大規模災害に対応できる体制の充実や地域医療支援病院として地域密着型医療を目指すことに加え、特長のある専門診療科による広域型の医療にも力を入れています。

淡海医療センター

お話を伺った淡海医療センター石橋さん、坂口さん、陳さん

 

在留外国人が多い地域の中核病院

多様な背景を持つ患者さんの対応が求められる

市内には大学や大手企業等の工場が立地しており、第二次産業に従事される技能実習生や留学生の方が多くいらっしゃいます。草津市の在留外国人の人口も増加傾向にあり、実際に淡海医療センターを受診する外国人患者さんの約9割が、在留外国人の方です。 患者さんの国籍は、ブラジルやペルー、中華人民共和国、ベトナム、フィリピンなど、本当にさまざまです。対応に使用する言語の上位は、ポルトガル語、スペイン語、ベトナム語となっており、英語以外の言語が多いというのも大きな特徴です。また、言語だけでなく文化や宗教においても多様な背景を持っておられます。そのため、医療通訳者の配備だけではなく、生活習慣や食生活への理解が求められます。

2017年度、厚労省の外国人患者対応環境整備事業を実施したのをきっかけに、在留外国人の方を中心に外国人来院患者数が増加しました。2020年以降、コロナの影響があり減少したものの、年に2,000人前後を推移しています。毎日8〜10名程の外国籍の患者対応を行っている計算になります。

 

チームで対応力を高める「国際医療支援室」

通訳が本当に必要なシーンを見極める

常勤の医療通訳は2名。中国語対応の陳さんと、ポルトガル語対応の坂口さんです。

淡海医療センター常勤通訳の坂口さん、陳さん

外国人患者さんの9割が在留外国人のため、実は日常会話は大体できることが多いです。ですが、患者さんも職員も来院されると通訳を頼って声をかけてきます。頼っていただけるのはありがたい一方で、その全てに対応することは実際には難しく感じています。なぜなら、来院されて診察してお会計まで、最初から最後まで対応するとなると、かなりの時間を拘束されてしまうからです。そのため、通訳が必要なシーンを見極めて対応することを大事にしています。

通訳が必ず必要なのは、医師からの診察やインフォームドコンセントの場面。病状の説明や治療の方針は、患者さんにとって重要な情報です。しかし、専門的な用語も多いため、日常の会話は出来ても通訳なしでは伝わりづらいことが多くあります。

 

チームで情報を共有し、スムーズな診察の実現へ

診察の場面でしっかりと通訳が入れる仕組みを作るために、過去に来院された方について、ID、氏名、何語をお話しするのか、どれくらいの日本語レベルなのかを全てデータベース化しています。予約の段階で、患者さんの状況に合わせて準備ができるので円滑な通訳対応に繋がります。また、初診の方については、案内から通訳が入り、支援の必要度を判断しています。

外国人患者対応の体制を整えていくためには、医師も含めスタッフの理解が欠かせません。以前は、外国人の方の名前が予約に入っているだけで、日本語が話せる話せないに関わらず、通訳が呼ばれていることがありました。そのため、対応に追われてしまい、診察の場面でお待たせしてしまうこともありました。患者情報をチームで共有しておくことで、そういった状況が改善され、通訳が必要な場面で入っていける環境が整ってきたと感じています。

一方で、院内の医療通訳スタッフには人的な限界もあります。通訳シーンとマンパワーに応じて遠隔医療通訳システムを活用しています。また、受付など日常会話のレベルで問題がない場合には、ポータブル翻訳機を活用することもあります。日々の予約状況を見ながら、通訳が必要な場面の優先順位を付けて通訳者を配置することで、スムーズに診療が進められるようにしていくことが、国際医療支援室の重要な役割の一つと言えます。

人だけではない、環境整備で対応力をアップ

24時間稼働の遠隔通訳システム

遠隔医療通訳システムは、24時間21言語に対応しています。常勤通訳のいる中国語、ポルトガル語以外にもさまざまな言語の患者さんがいらっしゃるので、その場合には遠隔通訳システムを使用しています。ビデオ式のタブレットは中央管理をし、専用電話端末を看護局、救急、外来、病棟など一定の場所に設置しています。緊急時には多くのスタッフの方に使っていただけるように準備をしています。

遠隔医療通訳システム(ビデオ式)

実際に遠隔医療通訳システムを使っている場面

50種類以上の書類を多言語で整備

文書で説明できるところは翻訳文書を整備するなど工夫をしています。院内全体の案内表示については、英語を中心に整備しています。また、検査説明や同意書、問診票に加え特徴のある診療科のパンフレットなどなど50種類ほどの書類を多言語で用意しています。ただ、原本が変わるということもあるので、更新や院内周知については関連部署、関連委員会と連携していく必要があると感じています。

院内サイン

多言語版同意書

多言語説明書

 

外国人患者受入れ医療機関認定制度(JMIP)の認証を取得

認定を取ることが目的ではない、組織の力を高めるために

2019年には、『外国人患者受入れ医療機関認定制度(JMIP)』の認証を取得しました。本認証制度は外国人の方々が安心・安全に日本の医療サービスを享受できるように、「外国人患者さんの円滑な受入れを推進する」国の事業の一環として厚生省が策定。一般財団法人日本医療教育財団が医療機関の外国人受入れ体制を中立・公平 な立場で評価する認証制度です。 1.受け入れ対応、2.患者サービス、3.医療提供の運営、4.組織体制と管理、5.改善に向けた取り組みの5項目で評価が構成されています。

JMIP

認証制度の認定を取ることが目的ではなく、5つの評価項目を整備することで、病院としての外国人患者への対応力が上がっていくのではと考えて、受審をしました。本制度をうまく使いながら組織として対応力を高めていくことができないか、と考えたわけです。病院全体で取り組むとなった場合に、マイルストーンがないとなかなか進まない部分もあるので、JMIPを一つのきっかけとして活用をさせてもらいました。

実際に、外国人患者受入れの方向性や目標を明確化し、院内で共有できたことはとても大きな価値があると思っています。国際医療支援室だけの力では難しいため、部署を横断した連携と、経営層の理解とサポートを集めながら進めていかなければなりません。病院全体で対応する意識を持つことで、スタッフ間の連携が強化され、円滑な対応を実現する体制につながったと感じています。

地域を巻き込む体制を目指す

JMIPの認証を取得したことで、地域の中で外国人患者受入れに力を入れている病院であることが少しずつですが、認知されてきています。これからも外国人の方は全国的に見ても増加・多様化していくでしょう。その様な中、特定の病院だけが外国人患者対応を整備して頑張っていくという形には限界があります。各医療機関でレベルに応じた対応が出来るように行政も情報をシェアしたり、外国人患者さんの対応について考える場を作ったりと、地域全体として取り組めるような体制づくりがより必要になってくると考えます。

国際医療支援室が目指すところ

患者も医療従事者も安心な環境に

外国人患者さんが受診をされる際に3つの壁があると言われています。「言葉の壁、文化の壁、制度の壁」です。言葉だけが通じたら解決する、というわけではありません。だからこそ、組織として対応していく必要があります。「国際医療支援室」が立ち上がった理由はそこにあります。

外国人の患者さんが日本の医療機関を受診するというのは、実はとてもハードルがあることです。 「日本語が話せると思われて通常のスピードで話されてしまい、全く聞き取れなかった」、「あまり分かっていないまま『大丈夫』と答えてしまった」、「薬の説明をしてもらったけれど、実は間違った使い方だったらどうしよう……」。そんな不安を抱えている患者さんがたくさんいるのです。

医師や看護師からも「正しく話が伝わっているのだろうか」と不安の声を聞くことがあります。実はお互いが不安な気持ちを抱えているのです。「患者さんの安心・安全」はもちろん大切です。一方で、医療従事者側の安心・安全も重要だと考えます。患者さん側の対応を整えることで、院内における受入れがよりスムーズに行えるよう、これからもチームで対応していきたいと思います。

多言語体制や翻訳した医療文書の整備は外国人患者さんの正確な理解へつながります。さらには「言語や文化背景の違いから発生するリスク」に対し、医療従事者を守れるようにもなります。 外国人患者さんを優先したり特別扱いしたりするということではなく、受入れの調整力と医療通訳の技能向上を図り言語や文化、制度の“ちがい”が前提としてあることを理解しつつ、患者さんと医療従事者の双方の安心・安全に対して務めること。それが私たち国際医療支援室のミッションであると考えています。