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好事例インタビュー

多くの産業で技能実習生を招く岩手県 ICT活用で効率的に言葉の壁=医療の壁を取り除く

岩手県/岩手県国際交流協会

インタビュー実施日:2021.8.26

日本の都道府県の中で、北海道に次いで2番目の面積を持つ岩手県。その広大で肥沃な大地は、海や山からの計り知れない恩恵にあふれています。観光客からは、世界遺産登録されている平泉の中尊寺を筆頭とした「平泉文化」を物語る史跡が特に人気。花巻温泉をはじめ、旅の疲れを癒してくれる温泉郷、東北有数の桜の名所として知られる北上展勝地など、見どころ満載です。また、複雑に入り組んだリアス式海岸がもたらす牡蠣をはじめとする新鮮な魚介類が人気で、他にも盛岡冷麺、わんこそば、前沢牛といったグルメも味わえます。このような観光地としての側面もありながら、岩手県は外国人観光客よりも技能実習生が多いのが特徴。日ごろから国際交流、外国人居住者のサポートを行う岩手県国際交流協会 主幹の川村央隆さんにお話を聞きました。

 

岩手県国際交流協会とは
1989年に設立され、2011年に公益財団法人に移行。2006年からは県の委託により、国際交流・協力活動の拠点施設として「国際交流センター」の業務運営を行っている。目標は、県民の国際理解を深め国際協力思想を高めるとともに、地域の活性化を図り、物心とともに豊かな郷土岩手の建設に寄与すること。2020年度から電話医療通訳サービスを導入し、外国人居住者に対する医療の質の向上にも尽力している。

お話を聞いた、岩手県国際交流協会 主幹の川村央隆さん

 

観光客よりも外国人居住者が多いのが岩手の特徴

台湾人観光客が何度も訪れる「八幡平ドラゴンアイ」

コロナ禍前の話になりますが、岩手県に来られていた外国人観光客は、台湾人が大半でした。岩手県と秋田県にまたがる八幡平の山頂付近にある「鏡沼」で雪が融け始める時期にだけ見られる「八幡平ドラゴンアイ」という現象が、訪れた台湾人のSNSから有名になったことがきっかけのようです。青い水面と白い雪が輪のように連なり、まるで龍の眼のような神秘的な光景が見られるんですよ。これが台湾人の琴線に触れたようで、2度3度と訪れる人も少なくありません。東京や大阪、京都のようなメジャーな観光地ではなく、あまり外国人が行かない隠れた名所を見つけたいという人たちには、岩手は恰好の的なのかもしれませんね(笑)。 

 

ベトナム人の技能実習生が中国を抜いて第1位に

一方で、全国的に見るとまだまだ少ないものの、当県の外国人居住者はほぼ右肩上がりで増えていて、その多くを技能実習生が占めています。宮古市をはじめとする沿岸部の水産業、北上市や一関市の製造業、それから養鶏場やアパレル関連の工場などで働く技能実習生が多いのが特徴です。在留外国人数の推移を見ると、全国的には2011年の東日本大震災から数年間は停滞していますが、当県は2011年に落ち込んだものの、その後はまたすぐに増加し始めました。一時的に当県を離れた技能実習生が、また戻ってきたからだと推測されます。当時は被災地に対する風評被害が多く見られた中、復興途上の当県にたくさんの技能実習生が戻ってきてくれたのは、本当に喜ばしいことですね。

[在留外国人数の推移(岩手県)]

[在留外国人数の推移(全国)]

※法務省「在留外国人統計 2019年」より(各年12月末現在)

 

2020年 12月末現在、全国の国籍・地域別の在留外国人数のトップ5は中国、韓国・朝鮮、ベトナム、フィリピン、ブラジル(出入国在留管理庁統計より)であるのに対して、岩手県はベトナム、中国、フィリピン、韓国・朝鮮、ミャンマーの順です。特に近年、全国的にベトナム人の増加が非常に目立ちますが、当県ではついにベトナムが中国を抜いて1位に躍り出ました。これは当県の産業とベトナム人が必要としている技能が合致したからなのでしょうね。

[在留外国人数の推移(岩手県/上位4か国)]

※法務省「在留外国人統計 2020年」より(各年12月末現在)

 

2019年から本格的に外国人患者受入れ事業を開始

外国人居住者のサポートを行う岩手県国際交流協会

岩手県国際交流協会は1989年に、岩手県、各市町村、企業の支援によって設立されました。2006年からは県の委託によって「国際交流センター」の業務運営を開始し、2011年に公益財団法人に移行。主に「日本語サポーター養成研修」「災害時多言語サポート研修会」といった国際交流・理解・協力につながるイベント、生活相談、入国・在留資格相談などの外国人支援を行ってきました。現在のコロナ禍においては国際交流センターの利用は休止されていますが、ほとんどの業務がオンラインに移行して滞りなく進んでいます。例えば、以前は講師やゲストと外国人居住者の皆さんに集まっていただいて文化の紹介や言語の研修を行っていたものを、現在はオンライン上のサロンのような形で同じように実施しているんですよ。

2020年に岩手県によって策定された「岩手県多文化共生推進プラン(2020~2024)」の中で、日本人と外国人が共に生活できる地域づくりとして、「防災・医療支援体制の構築支援」が挙げられています。私たちはこのプランにおける実働部隊として、個々の外国人住民のサポートを行っているというイメージですね。

 

ラグビーワールドカップに合わせてオンライン医療通訳を導入

こうした取り組みの一環として、当協会では2019年度からタブレットによるオンライン医療通訳サービスを取り入れました。それ以前は、ほとんどの医療機関で、日本語が話せない外国人患者が受診する際には友人や日本で生まれ育った子どもなど、通訳ができる人を同伴してもらうしかなかったようです。あとは当協会の人材バンクで通訳者を募る方法がありますが、日にちを要するためあまり現実的ではありません。また、県南の奥州市国際交流協会が医療通訳者の養成をしているので、奥州市内の提携する病院であれば派遣が可能ですが、当協会で対象としている県内全域をカバーすることは難しい状況でした。

外国人居住者が右肩上がりに増えていくにつれて医療機関を受診する外国人も多くなる中、外国人患者受入れの事業に取り組み始める直接的なきっかけになったのは、2019年9月に日本で行われたラグビーワールドカップです。会場の1つが当県にある釜石鵜住居復興スタジアムだったため、多くの外国人が当県を訪れることが予想されていました。事前に専門家から「外国人観光客のうち2%ぐらいの人が病気やケガで病院にかからなければならないと推測される」という話を聞いていたので、そのサポートのためにできることは何だろうと考えて、取り組みを始めたんです。もし外国人観光客が1,000人来たとすると、そのうち20人が受診する……。大きな都市では大した数字ではないでしょうが、これまで外国人を受け入れたことがない当県の病院にとっては大きなインパクトになりますからね。

そこで、2018年度の県の補助事業として外国人患者受入体制構築事業を開始し、2019年度からタブレットによるオンライン医療通訳サービスを取り入れました。当時、すでに岩手近県では、仙台市の公益財団法人 宮城県国際化協会が外国人支援通訳サポーターの育成・紹介、山形市の認定NPO法人 IVY(アイビー)が派遣・電話による医療通訳をスタートしていたので、これらの取り組みを参考に企画を練っていったんです。また、遡ってインバウンドが伸びてきた2017年度、私は滋賀県で行われた外国人患者の受入れに関する研修会を受講していて、その際にオンライン通訳のデモンストレーションを受ける機会にも恵まれていました。こうしてさまざまな施策を比較検討した結果、当県にとって通訳者を派遣するというのは時間の面でも医療機関との連携の面でも現実的ではなく、取り入れるなら電話通訳やオンライン通訳が合っているという結論に達したんです。

こうしてオンライン医療通訳サービスを取り入れたことで、ラグビーワールドカップは無事に乗り切ることができました。実際の利用件数はほんの数件に留まりましたが、医療機関にとっては「いざとなったらこのサービスが使える」という安心感を得られたことが何よりのメリットだったのではないかと思います。

医療通訳者と顔を合わせて話せるタブレットは患者の安心感にもつながる

 

利用頻度よりも、備えている安心感が医療現場には重要

オリ・パラ需要を見込んで電話医療通訳サービスもスタート

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会での需要を考えて、2020年度からはさらに電話医療通訳サービスを取り入れ、用途に応じて電話とタブレットの2つのサービスが選べる体制にしました。県内の医療機関であれば、事前に登録することで2つのサービスが受けられます。電話通訳サービスは通話料のみの負担で8:30から24:00まで、英語、中国語、韓国語、ベトナム語、タイ語などの22言語に対応。タブレットは英語、中国語、韓国語、ベトナム語、タイ語、タガログ語、ネパール語、インドネシア語、ヒンディー語、ポルトガル語、スペイン語、ロシア語の12言語に対応。事前の申込みやタブレットを送付する日数はかかりますが、タブレットの返送料のみの負担でオンラインによる医療通訳が受けられます。また、当県には県立の病院が多いので、12の県立病院のうち希望する9院に、常時タブレットを設置いただきました。

実際にはオリ・パラの開催はコロナの影響で2021年に延び、観光客も皆無だったため、2020年度のサービスの利用実績は電話もタブレットも2件ずつという寂しい状況でした。しかし、県からは「このサービスを切らさないように」というお達しがあったんですよ。利用は少なくても、登録している医療機関は24機関、62回線。いざという時に22にも上る幅広い言語でコミュニケーションが取れるという後ろ盾があるのは、医療現場の不安要素を取り除くために一役買っていると思います。

医療機関での電話とタブレットの使い分けは、事前に予約できる医療内容の場合や複雑な説明が必要だとわかっている場合はタブレット、急な来院の場合は電話というパターンが多いようです。今後は、例えばレントゲンの画像を通訳者に見てもらい、医師が指し示しながら説明するなど、タブレットの使い方がもっと広がっていけばいいなと思っています。医療機関への周知については、チラシを作成して、こちらから県の医師会や歯科医師会などに出向いて説明していき、会員である医療機関に情報を流してもらうという構図で進めています。

 

コロナワクチン接種会場では多言語に翻訳した資料が活躍

当協会では、厚生労働省が作成した新型コロナワクチン接種にかかわる資料を、独自に外部委託して英語、中国語、ベトナム語、タガログ語、ミャンマー語、インドネシア語の6言語に翻訳しました。ワクチン接種会場で配布する他、「いわて国際交流・国際協力、多文化共生リソースバンク」のサイトでもダウンロードできるようにしています。未知のウイルスの脅威はただでさえ不安なのに、そのワクチンを受ける際の注意点が書かれた資料がチンプンカンプンでは、ますます不安が広がってしまいますよね。少しでも外国人居住者の不安が解消されるよう、この資料作成に踏み切りました。考えてみれば、資料の多言語化は厚労省が行うべき施策ですよね。他県にも当県と同じような言語への翻訳を行っているところがあると聞いています。厚労省で一本化して支給してもらえれば、重複して予算が使われるようなムダな出費が防げたといえますね。

また、ワクチン接種会場でも当協会の電話医療通訳サービスが受けられる体制を整えています。まだ利用はゼロに等しいですが、持病のある外国人の問診や、事前の問診票で引っかかる項目があった場合、接種後にトラブルが出た時などに、電話でしっかりと確認してもらえるようになるといいですね。

厚労省作成の「新型コロナワクチンを受けた後の注意点」を多言語化

地域の医療機関が外国人患者対応にステップアップできる

現在、外国人患者への対応に悩んでいる国際交流協会や地域はたくさんあると思います。当県のように利用頻度が少ないだろうと見込まれる場合、医療通訳の導入自体を諦めがちではないでしょうか。しかし、たとえ実際の利用が極端に少なかったとしても、その地域の医療機関が事前登録さえしていれば、いつでも外国人患者に対応できる医療機関へと大きなステップアップができるんです。外国人患者が日常会話のできる友だちに通訳を頼む場合と、きちんと訓練を受けた医療通訳者に電話やタブレットで通訳を頼む場合では、提供できる医療自体に大きな差が出る可能性もあります。病気というとてもプライベートな部分を第三者に知られてしまうことを防ぐ意味でも、このICTが進んできている世の中、このように手軽に使える医療通訳を利用しない手はありません。

当県における今後の目標は、医療通訳サービスの利用件数を増やし、県の制度として定着させることです。無料で使えて、今より効率的に、効果的に診療が進められるので、医療機関にとってもメリットが多いサービスだと思います。この価値を理解さえしてもらえれば、もっと登録医療機関も利用件数も増えていくに違いありません。医療機関や外国人居住者にアピールできる施策も考えていきたいですね。

医療というのは誰にとっても、必ず受けなければならないような場面がやってくるものなので、平等なサービスを受けられるよう、障害となっている壁はどんどん取り払っていくべきです。医療現場における通訳サービスも保険の点数に入るような、必要があれば提供されるべきサービスの1つになってほしい。誰もが安心してさまざまなサービスを受けられる社会になることを願っています。