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好事例インタビュー

アジアの玄関口、福岡の多くの外国人のために気軽に相談、受診できる医療体制を目指して

福岡県/ふくおか国際医療サポートセンター

インタビュー実施日:2020.11.26

玄界灘、響灘、周防灘、有明海によって三方を海に囲まれ、中心部には筑紫山地が連なる福岡県。数々の観光地、恵まれた自然環境に育まれた食文化に加えて、九州地方で最多、全国の都道府県で第9位の人口を擁する経済都市であることも魅力の1つです。また、古くからアジアとの交流が盛んに行われ、石炭や鉄の生産を通じて日本の近代化を支えてきた歴史を誇ります。現在でも福岡空港、北九州空港、博多港、北九州港などと、韓国や中国、台湾、東南アジアの主要都市とを結ぶ航路があり、外国人観光客も増加傾向に。そんな中、県が外国人患者の円滑な受入れ支援を行うために開設したのが「ふくおか国際医療サポートセンター」です。医療指導課の柴田主任主事に詳しくお聞きしました。

 

ふくおか国際医療サポートセンターとは
福岡県内における外国人に対する医療環境の整備を目的として、福岡県が2012年から行っている委託事業。医療機関からの依頼に応じて医療通訳ボランティアの派遣を行うほか、「医療に関する外国語対応コールセンター」や「医療機関向けワンストップ相談窓口」を運営している。

高度医療を提供することによる国際貢献を目指す

アジア各国からの玄関口として、観光客、居住者ともに増加

福岡空港はアジア各国への国際旅客路線が22路線もあり、2019年の統計によると乗降客数は全国で第4位。北九州空港も4路線あり、九州で唯一の24時間利用可能な空港です。さらに、博多港には釜山との国際旅客定期航路があり、北九州港とともに国際拠点港湾になっています。こうした交通の便の良さから、当県を訪れる外国人観光客も2019年までは年々増加を続け、2019年の県内の外国人延べ宿泊者数は378万人あまり。訪日外国人が訪れる日本有数の都道府県の1つといっていいでしょう。

訪日外国人だけではなく、外国人居住者の数も2019年までは右肩上がりに増えていて、2019年6月末現在の都道府県別在留外国人数は全国で9位の79,129人。当県には大手自動車メーカーの工場が多く、自動車生産の一大拠点と言えるため、自動車関連の技能実習生やエンジニアなどとして働く多くの外国人が生活しています。また、九州大学をはじめとする国際的な大学や教育機関が数多くあるため、留学生が非常に多いのも特徴的です。

[都道府県別在留外国人数の推移]

[国籍別福岡県内在留外国人数の推移]

[福岡県の在留資格別在留外国人数]

2012年に「ふくおか国際医療サポートセンター」の前身を設立

このような国際都市でありながら、以前は当県の外国人患者の受入れ体制が十分に整備されているとはいえませんでした。2011年1月に医療滞在ビザが創設されて、アジアを中心とする海外から治療目的で来県する患者の増加が見込まれたものの、外国人患者からの相談を受ける窓口もない状況だったんです。訪日外国人だけではなく、当時すでに県内には5万人以上の外国人居住者が生活していて、医療機関を受診する際に、言葉が通じないことへの不安を持っている人も多く見受けられました。一方、医療機関においても言語の問題で外国人患者への対応に苦慮している状態でした。そこで、高度医療を提供することによって国際貢献していくことを目指し、県の事業として、2012年1月に「ふくおか国際医療サポートセンター」の前身となる「福岡アジア医療サポートセンター」を設立したんです。

当センターは外国人患者の受入れにあたっての各種支援を行っていくための窓口として設立されました。登録医療機関の依頼に応じ、医療通訳ボランティアの派遣や電話による医療通訳サービスを行うことにより、外国人居住者や旅行など短期滞在の外国人が安心して医療を受けられるような体制の整備を目指しています。

体制整備と周知徹底、通訳者の養成に取り組む

運営委員会で体制を検討し、派遣と電話で医療通訳を実施

当センターの設立にあたっては、医療関係団体、医療機関、国際交流機関、保険会社などにより構成される運営委員会を設け、外国人患者の受入れに関する事業を効果的に実施するための体制を検討していきました。当初は医療通訳ボランティアの派遣事業だけを行っていましたが、2015年から「医療に関する外国語対応コールセンター」の運営を開始し、2020年には「医療機関向けワンストップ相談窓口」を設置するなど、徐々に事業を拡充しています。

医療通訳ボランティアの派遣は、外国人患者が福岡県内の登録医療機関を受診する際に、医療機関からの依頼に応じて、英語・中国語・韓国語・タイ語・ベトナム語の医療通訳者を派遣するというもの。利用は無料で、医療機関の事前登録と派遣の予約が必要です。

「医療に関する外国語対応コールセンター」では、医療機関や外国人患者からの依頼に応じて、医師、患者、コールセンターとの間で2点または3点通話による電話通訳を実施。また、外国人患者からの問い合わせに対して、福岡県内の医療機関の紹介や日本の医療制度の説明、その他医療に関するさまざまなことを案内しています。利用は無料で、利用者の負担は通話料のみ。事前登録もいりません。対応言語は英・中・韓・タイ・ベトナム・インドネシア・タガログ・ネパール・スペイン・ポルトガル・ドイツ・フランス・イタリア・ロシア・マレー・ミャンマー・クメール・シンハラ・モンゴルの19種で、24時間365日の対応が可能です。

「医療機関向けワンストップ相談窓口」では、平日の9時から17時まで、外国人患者受入れに伴うさまざまな問題に苦慮している医療機関からの相談に対し、問題解決のための情報提供やアドバイスなどを実施しています。その他の時間は国の「夜間・休日ワンストップ窓口」が対応。事前登録は不要で、県内の医療機関が利用できます。こちらも利用者の負担は通話料のみです。今後も国、市町村、関係団体、医療機関などとの連携を図りながら、外国人受入れ体制の整備を進めていきます。

[外国人患者受入れ体制]

印刷物の配布とデータのダウンロードで周知を徹底

2012年の開設からこれまで、運営において一番の課題になったのは、医療機関や外国人居住者、外国人観光客といった利用者に当センターを知ってもらうことでした。医療機関に対しては、県内の全医療機関への配布物に告知チラシを封入するとともに、個別訪問を行うことで徐々に認知していただけるようになり、登録医療機関が増えてきました。外国人に対しては、関係団体を通じて県内の医療機関や市町村の行政機関などに告知チラシやカードを置いてもらい、自由に手に取っていただけるようにしたんです。医療機関用、外国人用ともに、告知チラシやカードは必要な分を印刷して利用できるよう、当センターのホームページからデータをダウンロードできるようにしています。


医療機関向けの告知チラシ


外国人向けの告知チラシ(日英、中韓)

コールセンターをはじめ、利用実績はおおむね増加傾向

医療通訳ボランティアの派遣は2019年度の利用実績が過去最多、コールセンターにおいては開設以来、利用実績が増加し続けています。2019年度の医療通訳派遣で利用が多かったのは、妊婦検診などの産婦人科、歯の治療などの歯科、治療プログラムなどの精神科でした。この理由は、派遣には事前予約が必要なため、前もって申し込める診療での利用が多いからだと考えられます。また、コールセンターの2018年の利用実績で多かった言語は、中国語・英語・韓国語・ベトナム語・ネパール語の順です。

医療通訳ボランティアの募集は、当センターのホームページや広報紙で行っています。対象者は各言語において通訳の経験がある人に限られ、医療通訳ボランティアとして登録するためには、座学研修1回、フォローアップ研修として模擬通訳研修3回の全4回にわたる養成講座の受講が必須です。

[登録・利用実績の推移]

外国人患者の受入れや受診ができたと感謝の言葉が多数

当センター開設当初と比較すると医療通訳の利用実績は増加傾向にあり、対応言語数の拡充や事業も広がってきています。登録医療機関や外国人患者からは、「電話通訳なしでは外国人患者の受入れや受診ができなかった。ありがとうございます」といった感謝の言葉を多々いただいているんですよ。