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好事例インタビュー

JMIP認証はゴールではなくスタートライン。
国際都市・横浜の中核病院が挑む、持続可能な体制づくり

横浜市立市民病院

インタビュー実施日:2025.11.28

横浜市立市民病院

取材協力:横浜市立市民病院
国際医療支援室長(看護部長 兼 副病院長)、管理部医事課長、管理部医事課係長、管理部医事課職員

2020年の新病院移転を機に、ハード・ソフト両面で機能を強化した「横浜市立市民病院」。 国際都市・横浜の中核病院として、多くの外国人患者を受け入れてきた同院ですが、その体制整備の道のりは決して平坦なものではありませんでした。 特に印象的なのは、JMIP(外国人患者受入れ医療機関認証制度)の「取得」から「更新」へのプロセスで直面した、「作った仕組みをどう運用し、改善していくか」という壁です。

ダイヤモンド・プリンセス号の対応などの実体験に基づく現場の意識改革と、組織全体で取り組む「持続可能な受入れ体制」の現在地について伺いました。

1. 動機と決断:国際都市・横浜の病院として

認証取得のきっかけ:新病院移転と国際イベント

当院が本格的に外国人受入れ体制の整備に動き出したのは、2020年の新病院移転に向けたコンセプト作りがきっかけでした 。横浜という土地柄、もともと多くの外国人が暮らしている地域ではありましたが、 当時はラグビーワールドカップ(2019年)や東京オリンピック(2020年)を控え、横浜として外国人患者の増加が確実視されていた時期でもあります 。そのような背景もあり、横浜市立市民病院再整備基本計画(2014年)において、3つの方針のうちの1つである「環境と調和し、人にも環境にも優しい病院 」の中に「国際化への対応」を位置づけました。

しかし、当時の現場は組織的な対応とは程遠い状況でした。各部署の親切な職員が個別に努力して、なんとか乗り切っている状態で、システマチックな体制ではありませんでした。

決断を後押しした「コロナ禍」の経験

組織としての体制整備の必要性を体感したのは、新型コロナウイルス感染症の拡大初期における「ダイヤモンド・プリンセス号」からの患者受入れでした。

最初に受入れた約20名の患者さんのうち、6割が外国人でした。言語の壁はもちろんですが、生活習慣の違いにも直面しました。 例えば、『食後のコーヒー』といった、病院の常食では対応しきれないご要望など、医療以外の部分での対応に現場は非常に疲弊しました。

この強烈な原体験が、「個人の頑張りに頼るのではなく、病院全体で組織的に対応しなければならない」という認識を院内に深く植え付けることになりました。

2. プロセスと壁:全部署を巻き込む「委員会」の発足

体制整備のステップ:バラバラだった情報の集約

認証取得に向けてまず着手したのは、全部署(看護、薬剤、事務、検査など)から代表者を集めたチーム作りでした。 現状を確認すると、翻訳文書一つとっても、各部署が独自に作成・管理しており、院内で統一されていないことが判明しました。 そこで、外国人患者が多い産婦人科ですでに作成されていた多言語指導冊子などの先行事例を参考にしつつ、文書類を電子カルテに取り込み、全職員が共有・活用できる仕組みを整えていきました 。

更新審査での気づき:「やりっ放し」からの脱却

しかし、本当の苦労は初回認証の「後」にありました。 初回は体制やツールを作るだけで評価されましたが、更新審査(2回目)では「現状があまり変わっていない」「PDCAが回っていない」という厳しい指摘を受けました。

作った仕組みが現場でどう活用され、どんな課題があり、どう改善されたか。そのサイクルが回っていなければ意味がないと痛感させられたのです。 これを受け、同院では担当部署任せにせず、正式に院内の「委員会」を立ち上げ、組織横断的に改善に取り組む体制へと再構築を図りました。

3. 受審後の変化:JMIPが変えた「院内の空気」

「外国人対応」から「誰にでも優しい病院」へ

地道な取り組みは、少しずつ院内の意識を変えています。その一つが「サポーター制度」です。 語学ができる職員を「院内通訳サポーター」として登録・可視化する制度ですが、そのメンバーは看護師や事務職員だけでなく、放射線技師や薬剤部のスタッフなど、多職種にわたっています。

院内の様々な部署から協力者が集まること自体が、職員一人ひとりが外国人受入れを『他人事』ではなく『自分事』として捉えるきっかけになりました。

また、院内広報誌「JMIP Times」の発行も重要な役割を果たしています。令和3年から年2回程度のペースで継続的に発行されており、院内ポータルサイトでのバックナンバー公開に加え、デジタル機器に不慣れな職員向けに紙媒体での掲示も行うなど、徹底した周知が行われています 。こうした草の根の活動が、「うちは外国人受入れに積極的に取り組んでいる病院なんだ」という組織文化を醸成しています。

JMIP Times

JMIP Times

さらに、ユニバーサルな視点も生まれています。 ホームページをGoogle翻訳などで多言語化する際、元の日本語が難解だと翻訳結果も分かりにくくなることに気づき、まずは「元の日本語を『やさしい日本語』にする」取り組みを始めました。 「外国人患者さんの視点で院内の案内や説明を見直すことは、結果として、難しい言葉が苦手な高齢者や子どもなど、日本人患者さんにとっても分かりやすい病院づくりにつながっています」。 外国人対応への努力が、巡り巡ってすべての患者さんへのホスピタリティ向上に還元されているのです。

具体的な成果とこれからの課題

現在では、現場で困った際に「国際医療支援室へ相談する」「タブレット通訳を使う」という判断がスムーズに行われるようになりました。

院内で使用可能なツール一覧表

院内で使用可能なツール一覧表

部門ごとにカスタマイズされた手のひらサイズの英会話フレーズ集

部門ごとにカスタマイズされた手のひらサイズの英会話フレーズ集

一方で、言語以外の新たな課題も見え始めています。

「災害時の避難誘導については、まだスタートラインに立ったばかりです。地震に不慣れな外国人をどう安全に誘導するか、マニュアルや訓練の整備が急務です」。

さらに、災害対策と並んでより深く繊細な課題として浮上しているのが、「文化的・社会的背景への理解」です。 その難しさを象徴する例として、インタビューでは「自殺」に対する捉え方の違いが挙げられました。「例えば、国によっては自殺未遂が犯罪となる場合や、ビザの更新に影響する場合があります。そのため、搬送されてきた患者さんが頑なに自殺を図ったことを認めないケースがあるのです。事情を知らない医療スタッフは「明らかに自殺未遂なのに、なぜ嘘をつくのか」と不信感を抱いてしまいがちですが、背景にある法制度や社会的制裁への恐れを知っていれば、その態度は「嘘」ではなく、身を守るための「自己防衛」であると理解できます」。

言語が通じるだけでは不十分で、その国の文化や社会的背景を知らなければ、患者さんの真意を理解できないことがあります。宗教や文化に配慮した食事や礼拝場所の確保に加え、こうした背景文化への理解をどう深めていくかが、今後の強化ポイントとして挙げられています。

4. 医療機関・自治体へのメッセージ

これから体制整備に取り組む医療機関に対し、「最初から完璧を目指さないで」とエールを送ります。 「当院も5〜6年かけて、ようやくここまで来ました。最初から完全な体制を作ろうとせず、まずは始めてみて、課題を見つけながら少しずつ改善していく姿勢が大切だと思います」。

最後に、外国人受入れを持続可能なものにするための要望も語られました。

「外国人患者受入れ体制整備や維持にはどうしてもコストがかかります。例えば通訳を使うと通常の診療に比べて2倍の時間がかかってしまいますが、診療報酬上は通訳がない場合と同じ扱いとなります。2倍かかる分の人件費等については病院の持ち出しのような状態になっています。こうした点も考慮して、国や自治体による財政的な支援や、日本の医療制度(保険の仕組みやフリーアクセスのルールなど)について、自治体レベルでも、外国人住民の方々へ情報提供や啓発活動をしていただけるとありがたいです。」

外国人患者の視点を取り入れることは、決して「特別な対応」ではありません。日本人患者を含めた「病院全体」の質を見直すことで、誰もが安心して受診できる医療環境へと進化できるはずです。

患者様からの声を聞くためのアンケートも多言語に対応

患者様からの声を聞くためのアンケートも多言語に対応

多言語に対応した受付システム

多言語に対応した受付システム

※インタビュー対象の方のご所属・肩書きはインタビュー実施当時のものです。

※各対象の体制等もインタビュー当時のものであり、現在と異なる場合がありますので、予めご理解ください。