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好事例インタビュー

福山医療センターが実践する地域連携と外国人患者受入れネットワーク

独立行政法人国立病院機構 福山医療センター

インタビュー実施日:2025.11.28

東京都 保健医療局 感染症対策部 防疫課

取材協力:独立行政法人国立病院機構 福山医療センター
国際支援部長/医師 藤田様
国際支援部/企画課長 岡本様
地域医療連携室 MSW 木梨様

広島県福山市の中核病院として、高度医療・救急医療を担う「独立行政法人国立病院機構 福山医療センター」。
2021年の取材当時から外国人患者の受入れに積極的に取り組んできた同院ですが、この数年でその数は倍増しています。
今回の取材で見えてきたのは、JMIP(外国人患者受入れ医療機関認証制度)の更新を機に取り組んだ「後方支援病院との連携」における、非常に現実的かつ効果的なアプローチでした。 特別な枠組みを新設するのではなく、既存のルートを活用するという多くの医療機関が参考にできる、持続可能な地域連携のヒントを伺いました。

急増する在留外国人患者。2021年からの変化と現在地

3年で倍増した患者数、変わらない国籍構成

福山医療センターは、2021年の取材当時は年間400人弱だった外国人患者数が、2023年には600人を超え、2024年は約740名に達し、数年で倍増に近い数の来院数となっています。

患者の属性はこれまでと変わらず、観光客などの「訪日外国人」は年間数名程度。圧倒的多数を占めるのは、地域の産業や学校を支える技能実習生や留学生といった「在留外国人」です。
国籍別ではベトナムが最も多く(約270名)、次いで中国(約100名)、フィリピン(約100名)と続き、この3カ国で全体の約7割を占めています。

多言語に対応した案内版

多言語に対応した案内版

JMIP更新を機に進化した院内体制

患者数の増加に対応するため、院内の受入れ体制も着実にアップデートされています。

  • マニュアル・教育の徹底: 新規採用者へのオリエンテーションで、当院の外国人対応方針を周知。
  • 「受付」での情報集約: カルテを開けば即座に「国籍・言語・保険加入状況・在留資格」が把握できるようシステムを改修し、スムーズな初期対応を実現。
  • 院外との連携: 地域の調剤薬局に対し、ホームページ等を通じて当院の対応状況を発信し、連携を強化。

また、医療安全管理の観点からも議論が進んでおり、特に水害リスクのある立地を踏まえ、「外国人患者の避難誘導」についての検討も始まっています。

核心テーマ:地域の「後方支援病院」とどう連携するか

今回、同院が特に力を入れたのが、地域の「後方支援病院(転院先となる病院)」との連携強化です。
JMIP更新審査において「入退院支援の充実」が課題となったことを背景に、急性期治療を終えた外国人患者を、スムーズに地域へお返しする仕組み作りが求められました 。 地域連携というと、新たに協議会を立ち上げたり、協定を結んだりと大掛かりなものを想像しがちですが、福山医療センターがとった手法は極めてシンプルでした。

地域医療連携室が元々行っていた『年3回の定期訪問』を活用することにしたのです。普段から連携している約27の医療機関へ訪問する際に、『外国人患者さんの受入れ可否』『言語の対応状況』について、併せてヒアリングを行うことにしました。

大がかりな会議を設定するのではなく、既存の業務フローの中に「外国人対応の確認」という項目を一つ追加する。この持続可能で現実的なアプローチが、現場の負担を最小限に抑え、実態把握を可能にしました。

「情報のバトン」を渡すことで、転院はもっとスムーズになる

訪問先では、Google翻訳などの翻訳アプリを活用したり、患者さんの職場の方や学校の先生が通訳として付き添っていたりと、各院が工夫して対応している実態が確認できました。その結果、「言葉が通じにくい」という理由だけで転院などの受入れを断られるケースは、ほとんどなかったといいます。
この実態把握は、実際の転院調整にも活かされています。 同院から患者を紹介する際、「入院中に言葉の問題に対してどのような対応をしてきたか」という情報を合わせて提供することで、受入れ先の病院が参考にできるようにしています。 実際に、手術目的で他院へ紹介し、術後に再び当院へ戻ってくるといった連携事例においても、言葉を理由に受入れ不可となることはなく、日本人患者と同様に必要な医療が提供されています。

「個」の限界と「公」への期待。これからの地域連携

自院の努力で地域連携を進める一方、担当者は「一医療機関の取り組みには限界がある」とも指摘します。

個別のクリニックへの働きかけには、人員や予算の面で、どうしても限界があります。行政や保健所の方々には、ぜひ主導的な役割を担っていただけるとありがたいと考えております。

  • 情報連携体制の構築:地域の医療機関、医師会、国際交流協会などが顔を合わせる「場(研修会など)」や情報交換ができる体制を行政主導で設けること。
  • コスト・リソース支援:外国人受入れを地域で推進するなら、通訳費用や未収金に対する行政による保証制度などのセーフティネットを整備すること。
  • 災害対策:水害等の災害時に、外国人を含めた地域住民をどう守るか。県のパッケージ補助金などの支援と、行政を含めた避難計画の共有が求められます。

言語の次は「文化」。マンパワーの限界を超えるために

また、現場が今、言語以上に難しさを感じているのが「文化的・宗教的配慮」です。
「異性の技師による検査拒否」「礼拝場所の確保」「食事(ハラール)対応」など、現在はスタッフのマンパワーで個別対応していますが、これにも限界があります。
言語対応はツールで解決できても、文化対応は「人」と「場所」が必要です。こうした領域こそ、行政のサポートや交流団体など地域全体での知恵の共有が必要だと語ります。

左から 木梨様、岡本様、藤田様

全国の医療機関・自治体へメッセージ

まずは、『言語対応』ができる環境を作ることから始めてみてください。また、一医療機関だけで動くのではなく、自治体としても多言語対応ができるような体制作りができれば、現場のストレスは大幅に減り、外国人患者の受入れは、より円滑になるはずです。

文化的な違いへの対応も考えると非常に労力を要しますが、最大の課題である「言葉の壁」を取り除く体制を構築できれば、外国人患者の受け入れは十分可能になると考えます。 地域全体で「言葉の壁」を乗り越える仕組みを作ること。それが、誰もが安心して医療を受けられる地域づくりへの確かな一歩となるはずです。

※インタビュー対象の方のご所属・肩書きはインタビュー実施当時のものです。

※各対象の体制等もインタビュー当時のものであり、現在と異なる場合がありますので、予めご理解ください。