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好事例インタビュー

外国人患者受入れ環境整備最前線インタビュー

三重県/公益財団法人 三重県国際交流財団

医療通訳者の派遣で必要性を実感し、直接雇用へ 「病院に通訳者がいる」と他県から引越してくる人も

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 製造業が盛んな三重県では、日系ブラジル人をはじめとする多くの外国人住民が暮らしています。働き手の人手不足を補う面でも彼らへの依存度が高く、医療、防災、教育といった多方面を充実させることで、在住外国人が安心して暮らせる環境づくりに取り組んでいます。こうした取り組みに三重県とタッグを組んで臨んでいるのが、公益財団法人 三重県国際交流財団(通称MIEF(ミエフ))です。今回は医療通訳等各種事業の中心者である国際教育課長の宇藤美帆さんと専門員の上原ジャンカルロさんにお話を聞きました。


公益財団法人 三重県国際交流財団(MIEF)とは
1991年、三重県における地域レベルの国際化を推進する中核的組織として発足。「多文化共生の推進」「地域における国際交流の促進」「国際協力の拡充」を目指し、さまざまな事業を行っている。この中の「多文化共生の推進」の一環として、医療通訳育成事業、医療通訳配置事業、財団パートナー制度運営事業(通訳者紹介)を実施。医療現場における言葉の壁を取り除くべく、行政をはじめ多方面の組織や団体などとの連携・協働を強化しながら取り組んでいる。


お話を聞いた、上原ジャンカルロさん、宇藤美帆さん(左から)

医療通訳への問い合わせを受け、検討会を発足

5万人を超える外国人が在住し、右肩上がりで増え続ける三重県

 三重県に限らず、東海3県は製造業が盛んなので、大手家電メーカーや自動車メーカーの下請けの会社もたくさんあります。こうした会社で、派遣会社を通して働いている外国人や技能実習生が当県にも多く在住し、右肩上がりで増えています。2018年末の当県在住の外国人数は50,612人(前年比2,947人、6.2%増)※1。出身国籍・地域の数は106か国で、国籍・地域別の外国人住民数では、多い順にブラジル(12,879人)、中国(7,938人)、フィリピン(6,904人)となっています。

※1 外国人住民国籍・地域別人口調査(2018年12月31日現在)より

[三重県内の外国人住民数の推移(2014~2018年)]

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関係各所から委員を集め、医療通訳等事業の検討会を実施

医療通訳等事業がスタートしたきっかけは、当財団から三重県への提案でした。日頃から地域における多文化共生を推進する活動を行っている当財団には、在住外国人たちから「病院に行きたいので通訳を紹介してほしい」とか、医療機関から「医療通訳ができる人はいないか」とか、そんな問い合わせが数多く寄せられていました。また、親より子どもの方が日本語が堪能だというご家庭が多く、親が受診する際に子どもに学校を休ませて通訳として同行させるケースが見受けられ、問題視されてもいたのです。これは行政の事業として取り組みが必要なのではないかと考え、私どもから県に事業の提案をしました。

この提案が取り入れられ、県で医療通訳等事業に予算を付けてもらうとともに、当財団へ業務を委託されたのが2002年です。さっそく県国際担当課と協力して、検討会を実施しました。検討委員は医師会や歯科医師会、薬剤師会といった医療関係の人に加え、県立の看護大学の先生や名古屋のブラジル総領事館で医療の相談を受けている先生、県の健康福祉・医療系の担当部署の人……。このような多くの関係各所の人たちに集まってもらい、検討会は2002年度に6回開催しました。

外国人患者への対応というと、今では医療現場において比重の大きな課題になっていますが、15年前は外国人患者がまだ今ほど多くはなかった頃のことです。検討委員の中には「そんなに困っているとは聞いていませんよ」という声もありました。実際、現場では困っていても、その問題が共有されるまでには時間がかかることが少なくありません。そんな問題意識への温度差を1つ1つ埋めながら、検討会を進めていきました。

検討会で話し合われたのは、今、外国人の医療にどんな課題があるのか、そしてその課題についてどのような取り組みが必要なのか。前年に神奈川県と京都市が独自の医療通訳システムを運営していたので、それを参考にさせてもらいつつ、検討していきました。結論として導き出されたのは、1つ目は専門的な知識を持った医療通訳者を育成する必要があるということ、2つ目は育成した人たちに活躍してもらい、実際に通訳をしてもらうための仕組み作りが重要だということです。さっそく翌2003年から、この2つの取り組みを事業として展開していきました。

前例を参考に試行錯誤し、三重県独自の体制を確立

数年間の検討の末、院内配置型の医療通訳事業へ方向転換

2003年の6月から医療通訳者を育成する研修を開始し、医療機関への通訳紹介もモデル的にスタートしました。しかし、当県での紹介の依頼はなかなか伸びませんでした。その原因の1つは、神奈川県や京都市の仕組みと異なり、三重県の場合、行政の全額負担で補助金を使って医療通訳を紹介することができず、医療機関または患者の負担が発生するという点です。それから、せっかく紹介の依頼をもらっても、実際に紹介できるのは早くても3日ぐらいかかってしまい、このことも件数が伸び悩んだ原因になっていました。そこで再び検討会でこの実態を検証し、どうしたらもっと使いやすくなるかを試行錯誤しました。

検証により導き出したのが、外国人の受診が多い病院に医療通訳者を3か月くらい常駐させてみようというアイディアです。トライアルで県の事業としてやってみると、それまでは年に30件ぐらいだった利用実績が、3か月で143件にも上りました。つまり、院内に医療通訳者がいることにはニーズがあることが分かったわけです。そこで、方向性を少しシフトして、院内配置型の医療通訳事業として普及させていくことにしました。

ポスター、SNS、チラシを駆使して外国人患者への周知を実施

外国人患者たちへの周知には、「当院には医療通訳者がいます」というポスターを院内に掲示し、当財団のSNSでお知らせするほか、外国人住民が集う外国食材店、料理店などにチラシを置いてもらうことも。その甲斐あって、診療を受けた外国人患者からのクチコミがどんどん広まっていきました。

病気やケガというのは急を要することがほとんどです。ただでさえ不安な状態の中で、言葉が通じる人が病院に常駐していて、いつ行っても通訳してもらえるという安心感はとても大きいです。また、1つの医療機関に長く在籍しているほど、その通訳者と患者や医療従事者との信頼関係も増していきます。こうした意味でも、院内配置型であるだけではなく、さらにステップアップさせて医療通訳者を医療機関に直接雇用してもらうことができれば、当初の想定以上に得られるものが大きいと実感しました。


医療通訳者紹介の案内と、外国人患者向けのチラシ(ポルトガル語)

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紹介、直接雇用、トライアルと、3つの雇用パターンが存在

 2013年度に県の緊急雇用の予算による大きな事業があり、その際に9か所の医療機関と1か所の保健センターに医療通訳者を11か月間配置するという機会を得ました。期間終了後、このうちのいくつかはそのまま、医療機関の直接雇用という形で業務を継続しています。数時間の勤務が週に2日だったものが3日になり、毎日になり、フルタイムになり、正職員になり……というように、業務内容や雇用条件が向上していく例も多いです。医療通訳者の配置日数や使用言語を増やすなど、外国人患者対応を拡充していく医療機関も少なくありません。

このように、当県の医療通訳等事業を進めてきた結果、現在では医療機関に医療通訳者がいるという状況に3つのパターンが存在しています。三重県国際交流財団が医療通訳者を紹介しているパターン、医療機関が医療通訳者を直接雇用しているパターン、その前段として、県の支援でトライアル的に医療通訳者を配置しているパターンの3つです。

当財団が医療通訳者を紹介する制度を「医療パートナー制度」と呼び、医療通訳者を「医療パートナー」と呼んでいます。最初は県からの委託でスタートしましたが、現在は私どもの自主事業として運営しています。現在、当財団に登録している医療パートナーは136人で、ポルトガル語、スペイン語、フィリピノ語、中国語、英語の5言語に対応しています。このほかに、医療機関で直接雇用されている医療通訳者、いわば三重県の医療通訳育成研修の卒業生が13人です。当財団所属の医療通訳者と医療パートナーによる2018年の2医療機関および2市保健センターでの通訳件数は2,588件。この件数には直接雇用の分は含まれていないので、実際にはこれより大幅に多い件数の医療通訳が、三重県内で行われていることになります。直接雇用が増えれば、それだけ外国人患者に対応できる医療機関が増えていくわけですから、積極的に医療パートナーを直接雇用に結びつけられるよう尽力しています。

医療通訳に必要な知識、通訳技術、倫理感を研修で習得

2019年度も、当財団は県から医療通訳育成事業を受託しています。医療通訳育成研修を実施し、医療通訳に必要な知識、通訳技術、倫理感などのスキルを習得してもらうもので、受講料は無料で行っています。基礎編とスキルアップ編があり、どちらも人気があります。基礎編は対象言語(ベトナム語、ネパール語、フィリピノ語、インドネシア語)のいずれかと日本語の両方において日常会話程度の語学レベルを持っている人が対象です。最初に受講選抜試験を受けてもらい、そこで合格した人でないと医療通訳育成研修を受けることができません。さらに高度な会話ができ、即戦力になる人はスキルアップ編(ポルトガル語、スペイン語)で学んでもらいます。すでに医療通訳者として活動している人であっても、「10年経っても新しい言葉が出てくる」と、スキルアップ編を受講する人もいます。2018年には38人が医療通訳育成研修を受講しているので、医療パートナーや直接雇用はこれからも増えていくでしょう。


医療通訳育成研修の案内

安心して暮らせる多文化共生社会を目指して

医療機関への啓発、多言語対応などの課題も

まず差し当たっての課題としては、2019年度、県の予算で行っている半年間の医療通訳配置のトライアルを、期間終了後、いかに直接雇用に移行するかということですね。基幹病院が多いので、トライアルだけで終了してしまうと、そこのエリアに住む外国人が困ってしまいます。家族や友人、一般的な派遣会社の通訳者は医療通訳の知識がない人も多いです。三重県の医療通訳育成研修では専門用語や守秘義務についても学びます。当財団でも医療機関側にさまざまな啓発を行い、医療通訳者の必要性、利便性に気付いてもらえるよう尽力している所です。

また、現在の5言語から、対応言語を増やしていくことも課題の1つでしょう。当県のように配置型だと24時間の対応ができないので、電話通訳や機械翻訳など、いろいろなツールをうまく使って、時間的にも幅広く対応できるようになるといいですね。人材の面では、医療機関に外国人患者が来た時の窓口の役割を担うコーディネーターを育成したいと考えています。患者の話を聞いて症状からどの科が適しているのか見極め、医療通訳者の手配をするのはもちろん、保険の相談やソーシャルワーカー的なアドバイスもできる人材。医療に関する幅広い知識が必要なので、育成はなかなか難しいとは思いますが、ぜひともチャレンジしたいですね。

医療従事者、通訳者、患者、それぞれから「良かった」という声

現時点で、当県における医療通訳等事業は試行錯誤しながらも前進しているといえるかと思います。医療従事者からは「効率的に外国人患者への対応ができた」、「医療費未払いなどのトラブルを回避できた」という声が聞かれますし、医療通訳者たちは口々に「とてもやりがいがある仕事だ」と。外国人患者からも感謝の声が多数寄せられています。これまで、医療通訳の配置後に事業を縮小した医療機関はありません。この先ももっとニーズも利用実績も増えていくものと考えています。

以前とは医療通訳に対する考え方も変わってきているので、地道にやっていくことがとても大切なのだと思います。特に当県は、外国人への依存の度合いが高いということもあり、彼らが安心して暮らしていくための医療、防災、教育といった面を充実する必要があると思います。以前、ある企業が県外在住の外国人に向けた求人のチラシに、「三重県の病院には通訳者がいますよ」と書いたところ、それを見て実際に県外から引越して来た人がいたそうです。「三重県なら外国人も安心して暮らせる」と思ってもらえるのが、私どもが望む理想的な多文化共生社会です。